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さくらのみのじゅくするとき

桜の実の熟する時

島崎 藤村

「文章世界」1913(大正2)年1~2月、1914(大正3)年5月~1918(大正7)年6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 111,569 字 · 222 页

青空文庫

互いに肩を並べて平坦な運動場の内を歩いて行った。講堂の方で学校の小使が振り鳴らすベルの音は朝の八時頃の空気に響き渡りつつあった。運動場の区劃は碁盤の目を盛ったような真直な道で他の草地なぞと仕切ってあって、向うの一角に第一期の卒業生の記念樹があれば是方の一角にも第二期の卒業生の記念樹が植えてあるという風に、ある組織的な意匠から割出されてある。三棟並んだ亜米利加人の教師の住宅、殖民地風の西洋館、それと相対した位置に講堂の建物と周囲の草地とがある。入口の石段について、捨吉が友達と一緒に講堂へ上ろうとすると、ポツポツ界隈からもやって来る人があった。そこで捨吉達はエリス教授にも逢った。教授はズボンの隠袖へ手を差入れて鍵の音をさせながら、図らず亭主側に廻ったような晴々とした顔付で居た。

多数の聴講者を容れるチャペルは階上にあって、壁に添うた階段は入口に近くから登られる。三年ばかりの間、毎朝の礼拝だエロキュウションの稽古だあるいは土曜の晩の文学会だと言って、捨吉達が昇降したのもその階段だ。それを上りきる時分に、菅は滑かな木造の欄に手を置いて、捨吉の方を顧みながら、