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つちのなかからのはなし

桜の森の満開の下

坂口 安吾

坂口安吾『桜の森の満開の下』。同一底本的分册已合并为一书。收入:土の中からの話、家康、閑山、禅僧、小さな部屋、道鏡。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 76,558 字 · 153 页

青空文庫

その単純な心に就て。そういう時には、時々、深く息を吸い、そして大きく吐きだすような静かな澄んだ心があった。けれども思いは、ただそれだけでは終らなかった。そして最後に、上皇は身ぶるいがする。すると、もはや、暫く何も分らなかった。彼女は祈っていた。然し、より多く、決意していた。それは彼女の肉体の決意であった。

あの人ならば。なぜなら、彼の魂は高く、すぐれていた。そして、識見は深遠で、俗なるものと離れていた。

だが、何よりも、彼は天智の皇孫だった。臣下ではなく、王だった。それを思うと、すでに神に許された如く、彼女の女の肉体はいつも身ぶるいするのであった。

*

宝字五年、光明太后の五周忌に当っていたので、八月に、上皇は天皇をつれて薬師寺に礼拝、押勝の婿の藤原御楯の邸に廻って、酒宴があった。

忌を終り、十月に、保良宮に行幸した。天皇も同行し、道鏡も随行した。押勝は都に残った。

すでに上皇の肉体は決意によって、みたされていた。上皇の保良宮の滞在は、病気の臥床の滞在だった。道鏡のみが枕頭にあり、日夜を離れず、修法し、薬をねり、看病した。そして上皇は全快した。