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つちのなかからのはなし

桜の森の満開の下

坂口 安吾

坂口安吾『桜の森の満開の下』。同一底本的分册已合并为一书。收入:土の中からの話、家康、閑山、禅僧、小さな部屋、道鏡。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 76,558 字 · 153 页

青空文庫

見えてきたのだ。家の虫の盲目的な宿命の目によって。

新たな天皇と太政大臣押勝は一つのものであった。新帝は、彼女のものでもなく、国のものでもなく、押勝の天皇だった。そういうことが、分るのは、押勝と彼女の間に距離が生れてきたからであり、そして彼女は距離をおいて眺める心も失っていた我身の拙さに気がついた。

上皇は家に就て考える。いや、家の虫が、我身に就て考えるのだ。彼女は押勝を考える。臣下と、つまり、ただの男と、どうしてこんな悲しいことになったのだろう。我身の拙さ、切なさに堪えがたかったが、その肉体のいじらしさ、わが慾念のいとしさに、たまぎる思いがするのであった。

彼女は押勝がいやらしかった。一時に興ざめた思いであった。我身のすべての汚らわしさも、押勝一人にかかって見えた。押勝はただ汚さが全てのように思われた。

上皇は道鏡に就て考える。静かな夜も、ひっそりと人気の死んだ昼ざかりにも。彼女は強いて、その肉体は思いだすまいとするのであった。そして、実際、その肉体を思わずに、道鏡に就て考えていることがあった。その識見の深さに就て。その魂の高さに就て。その梵唄の哀切と荘厳に就て。