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つちのなかからのはなし

桜の森の満開の下

坂口 安吾

坂口安吾『桜の森の満開の下』。同一底本的分册已合并为一书。收入:土の中からの話、家康、閑山、禅僧、小さな部屋、道鏡。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 76,558 字 · 153 页

青空文庫

天皇は自分であった。その事実は、疑られ、内省されたことがない。

女帝は彼に法王を与えた。天子と同じ月料と、天子と同じ食服と、鸞輿を与え、法王宮職をつくって与えた。すでに実質の天皇だった。すくなくとも、彼女が男帝ならば、道鏡は皇后だった。

女帝は気がついた。家をまもる陰鬱な虫の盲目の希いが、天皇は自分であるということを、てんから不動盤石に、疑らせもしなかったのだ、と。

女帝は道鏡が気の毒だった。いたわしかった。そして、いとしくて、切なかった。どこの家でも、女は男につき従っているではないか。なぜ、自分だけ。なぜ道鏡が天皇であってはいけないのか。

女帝は決意した。宇佐八幡の神教が事実なら、そして、勅使がその神教を復奏したなら、甘んじて彼に天皇を譲ろう、と。なぜなら、彼は皇孫だから。諸臣もそれを認めている。のみならず、天智天皇の孫ではないか。

女帝はその決意によって、幸福であった。愛する男を正しい男の位置におき、そして自分も、始めて正しい女の姿になることができるのだ、と考えた。

まだ女帝には皇太子が定められていなかった。可愛い男は今は彼女の皇太子でもあったのだ! 上皇という女房の亭主が天皇とは珍らしい。