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つちのなかからのはなし
桜の森の満開の下
坂口安吾『桜の森の満開の下』。同一底本的分册已合并为一书。收入:土の中からの話、家康、閑山、禅僧、小さな部屋、道鏡。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 76,558 字 · 153 页
天皇から皇后になることはできないのかな、と、女帝の空想はたのしかった。道鏡が天皇になったら、うんと駄々をこねて、こまらしてやりたい。うんとすねたり、うんと甘えたり、手のつけられないお天気屋になってやりたい。そして道鏡の勘の鈍い、取り澄した、困った顔を考えて、ふきだしてしまうのだ。
*
和気清麻呂は戻ってきた。
彼のもたらした神教は意外な人間の語気にあふれ、奇妙な結語で結ばれていた。無道の者は早くとりのぞくべし、というのだ。
道鏡は激怒した。なぜなら、彼は、ただ神教の真否をもとめただけだった。天皇になりたいなどとは言わない筈だ。むしろ、心の片隅ですら、それを望んだ覚えがなかった。
清麻呂の復奏は、ただ道鏡を刺殺する刃物の如く、彼のみに向け、冷やかに、又、高く、憎しみと怒りと正義をこめて、述べられていた。
その不思議さに、いち早く気附いた人は女帝であった。道鏡の立場は何物であるか。彼はただ、贋神教に告げられた一人の作中人物にすぎない。咎めらるべき第一のものは、贋神教であらねばならぬ。神教はそれに就てはふれてはおらぬ。清麻呂の語気も態度も、阿曾麻呂に向けた批難のきざしが微塵もなかった。