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つちのなかからのはなし
桜の森の満開の下
坂口安吾『桜の森の満開の下』。同一底本的分册已合并为一书。收入:土の中からの話、家康、閑山、禅僧、小さな部屋、道鏡。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 76,558 字 · 153 页
なものをすりまわしながら行進するのが寒々とした中にも異様な夢幻へ心を誘う風景であった。こんな山奥でも人は死ぬ、余りに当然なことながら、夢のようにはかない気がした。きっと年寄りが死んだのでしょうね? と旅人は傍らの農夫にたずねてみた。へえ年寄りが首をくくって死んだのです。え、自殺? そんなことがこの山奥にもあるのですか? へえ年に三四人ずつあるようです。貴方の足もとの、ほらこの沼へとびこんでその年寄りは冷たくなって浮いていたのです。棒がとどかないので、私達が盥に乗りだして引上げたのですが、盥に菱がからまって私達までなんべん水へ落ちそうになったか知れません、と言うのであった。旅人は一度に白々とした気持ちを感じた。全てが一家族のような小さな村にも路頭に迷って死を求める人がある、都会の自殺には覇気がありむしろ弾力もある生命力が感じられるが、この山奥の自殺者の無力さ加減、絶望なぞと一口に言っても、もともと言いたてるほどの望みすらないところへ、それが愈絶えたとなると一体どういう澱みきった空しさだけが残るだろうか、考えただけでも旅人はうんざりして暗くならざるを得なかった。