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つちのなかからのはなし
桜の森の満開の下
坂口安吾『桜の森の満開の下』。同一底本的分册已合并为一书。收入:土の中からの話、家康、閑山、禅僧、小さな部屋、道鏡。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 76,558 字 · 153 页
この山村の自殺は小石を一つつまみあげて古沼の中へ落すことと同じような努力も張り合いもない出来事に見えた。
医者は多少の財産があるのか、夏は温泉で遊び冬は橇を走らして遠い町へ遊びにでかけた。夏の山路は九十九折で夜道は自動車も危険だが、冬は谷が雪でうずまり夜も雪明りで何心配なく橇が谷を走るのだ。そのうちに村の娘を孕まして問題を起した。
知識階級の移住者には小学校の先生があるが、この人達も評判がわるい。男女教員の風儀だとか吝嗇とか不勤勉ということが村人の眼にあまるのである。ところがそういう村人は森の小獣と同じように野合にふけっているのである。盆踊りを絶頂にした本能の走るがままの夏期のたわむれ、丈余の雪に青春の足跡をしるしている夜這い、村人達の生活から将又思い出からそれをとりのぞいたら生々とした何が残ろう! 半年村をとざしてしまう深雪だけでも彼等の勤労の生活は南方の半分になるわけだが、山々を段々に切りひらいて清水を満した水田と暗澹たる気候で米の実りの悪いことは改めて言うまでもないことである。豊穣という感じが、気候や風景に就いても同断であるが、その生活に就いても全く見当らないのである。