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もりのくらきよる
森の暗き夜
小川 未明
「新潮」1910(明治43)年8月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,725 字 · 18 页
二
女は、やはり下を向いて仕事をしていた。
「今晩は!」……女は、手を止めて頭を上げた。三面は壁である。東の方だけ破れた障子が閉っている。ちょうど、鑿で、地肌を剥り取ったように夜の色が露出していた。
女は、また下を向いて仕事に取りかかった。赤い爛れた目のようなランプが、油を吸い上げるので、ジ、ジー、ジ、ジー呻り出した。
二
片隅の埃に塗れた棚の上に、白い色の土器が乗っていた。いつそこに置かれたのか分らない。土器は、沈黙して、「時」の流れから外に置かれたことを語っていた。気の抜けたような白色が、前の世の、人間が用いていた匂いがする。
女の、頭髪が、赤茶けて見える、女は、東の方の破れた障子に向いて仕事をしている。
「今晩は。」……と力ない、頼むような声がした。
女は、前の仕事を押しのけて、熱心に耳を傾けた。壁の方を見て茫然とした。壁の一面は黄いろく、二面は灰色に塗ってあった。
女は、立って破れた障子を開けた。黒い幕を張り詰めて、金紙の花を附けたように、数えるほどの星が出ている。暗い森には風すらなかった。
「今晩は、私を泊めて下さい。」
と、一人の男が、女の前に立った。