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もりのくらきよる
森の暗き夜
小川 未明
「新潮」1910(明治43)年8月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,725 字 · 18 页
八
見る間に痩せた両足は、藪で育った侵入者の貯えきっていた毒針で、太く、重く、淡紫色に腫れ上った。けれど、鋭い口は、肉と肉とを分けて、なお深く喰い込んでいた。子供は、火のように泣き立てている。その声は、力の弱いので、腹の飢えているので、体の病身なので、いつしか衰えて来た。
女は、やはり下を向いていた。両方の眼が子供の泣声と、蚊の襲撃とで、益々険しく輝いた。怒り、恨み、悪み、それが一点に火となって輝いたのである。彼女は手を廻して、子供の病的な頭を打った。
八
柔らかな、潤いの乏しい、大きく開いた子供の眼は、々として上る朝日の光りを避けた。真昼の光りでさえ、この弱い子供の眼は、瞳に映るのを怖れている。昼の恐怖についで、怖しいものは夜の恐怖であった。
この児は、昼と夜とのいずれにも育たない児だ。更に深い夜、更に暗い世界でなければ、この児の弱い眼は、外光の刺戟に堪えられない程であった。けれど、生きているうちは、また饑を感ぜずにはいられない。子供は女に乳をねだった。
「やかましいよ。お前にかまっていられるかい。」
女はこう言って、やはり下を向いている。子供の身の廻りには、黒い、細い、強い縄が取り払われた時がなかった。