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もりのくらきよる

森の暗き夜

小川 未明

「新潮」1910(明治43)年8月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,725 字 · 18 页

青空文庫

一

一

女はひとり室の中に坐って、仕事をしていた。赤い爛れた眼のようなランプが、切れそうな細い針金に吊下っている。家の周囲には森林がある。夜は、次第にこの一つ家を襲って来た。

森には、黒い鳥が棲んでいる。よく枯れた木の枝などに止まっているのを見た。また白い毛の小さな獣物が、藪に走って行くのを見た。枯木というのは、幾年か前に雷が落ちて、枯れた木である。頭が二つの股に裂けて、全く木の皮が剥げ落ちて、日光に白く光っていた。この枯木の周囲には、青い、青い、木立が深く立ち込めていた。しかし、この一本の木が枯れたため、森に一つの断れ目が出来て、そこから、青い空を覗うことが出来る。

女が、白い獣物を見たのは、円い形をした藪から、飛び出て、次の藪へ移るところであった。そこへ立ち寄ると、平地に倒れた草が、刎ね返り、起きあがる所であった。鮮かな、眩しい朝日が、藪の青葉の上にも、平地にも、緑色の草の上にも流れている。

森から出た日は、また森の中に落ちて行く。ちょうど、重い鉄の丸が、赤く焼け切っているように奈落へと沈んで行く。壁一重隔てた、森が沈黙している。怖しい、暗い夜の翼が、すべての色彩を腐らし、滅して、翼たゆく垂れ下がって、森の頂きと接吻したらしい。