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しいのき

椎の木

豊島 与志雄

「経済往来」1934(昭和9)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 25,870 字 · 52 页

青空文庫

精神までも硬直していたらしい。じっと眼を据えたきりで、誰が何と云っても、もう一言も口を利かなかった。それでも、手を引いてやると、おとなしくついてくるのだった。

その夜、竹山茂吉が、アパートの自分の室の中で、拳銃で心臓を弾ち貫いて自殺したことが、中一日おいて分った。最後の苦悶のうちにも握りしめていたらしい拳銃が、自殺を立証した。遺書めいたものは何も見当らなかった。

それらのことを、川村さんは話し終えてから、良一の意見を求めるもののように、しばらく口を噤んでいた。良一は言葉が見当らなかった。川村さんは煙草をふかしながら云った。

「今になって僕は、竹山の父親に対する僕の本能的な反感の理由が、ぼんやり分るような気がするんだ。彼は行きづまってから、女と出奔した。女から裏切られると、それを殺そうとした。それから子供に無理にも逢おうとした。そして遂に自殺するようなことになった。ところが、僕なら、最初の第一歩で自殺してるね。それが、僕のようなインテリの弱さかも知れないが、また強みでもあり、朗かさでもある。要するに性格の相違だ。」

良一は、川村さんの冷いところと温いところに、同時にふれたような気がした。