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えのきものがたり
榎物語
山本 周五郎
「オール読物」文藝春秋新社、1961(昭和36)年9月~10月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 33,519 字 · 67 页
この嫁入りはたいそう派手なことになり、支度から輿入れまでに半年あまりかかった。そして、祝言を中にした三十余日、河見家の者は江戸に滞在していた。さわだけ葉川村に残ったのであるが。
留守をしているあいだに、さわは二つの事実を知った。彼女と国吉のことを父に告げたのは、飯炊きの足助老人であること、国吉は放逐されるときに、門の外でひどく折檻されたこと、などである。もう過ぎ去ったことであるし、それがわかったからといってどうなるのでもないが、さわは自分の心に新しい傷が出来、そこから血がしたたり落ちるように思った。――この屋敷で多少なりとも味方になってくれるとしたら、それは足助ただ一人だろうと思っていた。その足助が告げ口をしたということは、いざとなれば頼りになる者もあるという、さわの心のよりどころを粉砕されたようなものである。
――人はたのみにならない。
さわは改めてそう思った。両親やきょうだいまで頼りにならなかったうえ、足助にまでそむかれたことは、人間に対する絶望感を深くするとともに、国吉を想う気持をもっとひたむきな、激しいものにそだてていった。
変化のない月日が経っていった。