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もみノきはのこった
樅ノ木は残った
山本 周五郎
03 第三部
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 167,285 字 · 330 页
断章(九)
久馬は黙って平伏した。
断章(九)
――御首尾いかがでしたか。
「酒の支度をさせろ」
――めでたく御談合がついたのですな。
「厩橋侯(酒井雅楽頭)は上機嫌だった」
――それはおめでとうございました。
「まず酒を飲もう」
――給仕はいかが致しますか。
「話しが済んでからでよい、まず祝いに一盞するとしよう」
「遣わそう、祝って飲め」
――頂戴つかまつります。
「東市正(兵部の子)を飯倉の中屋敷へ移す」
――では、……
「婚儀は来春ときまった」
――それはそれは。
「婚儀には京から姉小路卿(名は公量、酒井忠清の夫人の父)もくだられるそうだ」
――いよいよ御万代でございますな。
「おれはこの日を待っていた、待ちかねていたくらいだ、じつをいうと、姫と東市正との婚約は、ながれてしまうのではないかとさえ、思っていたのだ」
――それはまた、いかが致して。
「婚約の期間があまりに長すぎたし、厩橋侯の意中がだんだん計りかねるようになった、隼人も知っているように、初め侯は、一万石ばかりの小大名を縁類にもつつもりはない、と云っておられた」
――さようにうかがいました。
「そのご岩沼(田村右京)と共に亀千代の後見になったとき加増があって、知行は三万石あまりになったが、もちろんそれで侯が満足される筈はない、六十万石を分割して、三十万石の大名にならぬ限り