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もみノきはのこった
樅ノ木は残った
山本 周五郎
03 第三部
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 167,285 字 · 330 页
忍緒
「ああ、伊東さんですか」と帯刀が立停った。
そこは東陽寺の門前で、呼びとめたのは伊東七十郎であった。彼は船迫のときと同じように、旅嚢をひっかけた刀をかつぎ、笠をあみだにかぶり、汗だらけの顔で、笑っていた。
「久しぶりですね」
「すっかり大人になったな」と七十郎が云った、「館へ小野(伊東新左衛門)が来ているというので、これからゆくところだ、暑いのに山遊びかね」
七十郎は帯刀の持っている茱萸の枝を見、それから、うしろにいる宇乃を見た。かくべつ注意して見たわけではない、一瞥しただけで、すぐに帯刀と並んで歩きだした。
「小野さまは国老になられるのだそうですね」
「よせばいいのに、ばかな人だ」
七十郎はそう云って、ふと振返って、また宇乃を見た。宇乃は俯向いて、ゆっくりと歩いていた。
忍緒
原田家の隠居屋は、別棟になっている。桁行七間、梁間四間半、茅葺き四注造りで、表てに十帖の座敷が三つ、接待、中の間、上段の間とある。これらは南に面しており、裏の北側に化粧の間と茶の間が続いていた。
上段の間は、おさ欄間、棹縁天床、西面して塗框の本床と、平書院を並べ、その左に袋棚と地袋の床脇がある。