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もみノきはのこった
樅ノ木は残った
山本 周五郎
03 第三部
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 167,285 字 · 330 页
甲斐も背丈は高いが、帯刀も高い。いまでも五尺五寸ちかくあるが、もっと伸びるだろう。顔は母親に似たようだが、躯つきや性格は父親のを受継いだらしく、その口ぶりも、動作も、おっとりと、老成してみえた。二人は樹蔭の草の上に、腰をおろしていた。そこは砦山の中腹で、東に面し、松林にかこまれていて、向うに船岡の町と、原田家の館のある丘が眺められた。
宇乃は館のほうを見ていた。彼女は十六歳になり、胸や腰のあたりには、すでに、おとなびたまるみがみえるが、顔つきはまだ少女のままで、張のある大きな眼にも、鮮やかに赤い、しめった唇にも、媚びや嬌羞は少しも感じられなかった。
松林の影で、宇乃の顔は青く染っているようにみえた。影に区切られた地面の向うには、初秋の午後の強い日光をあびて、伸びた雑草がいちように葉先を垂れてい、そこから、蒸れた草の香が匂って来た。宇乃は「あら」といって、吃驚したように振向いた。
「どうなさいましたの」
「宇乃こそどうした」と帯刀が微笑しながら云った。宇乃は眼を大きくまたたいた、すると、その眼はもっと大きく、はっきりと澄んだ光を帯びた。
「わたくし、どうか致しまして」