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もみノきはのこった

樅ノ木は残った

山本 周五郎

03 第三部

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 167,285 字 · 330 页

青空文庫

――心得ました。

「できるだけ早くしろ、待っているぞ」

――おいとまを頂きます。

「よし、さがれ」

――申上げます、只野内膳、おめどおりを願います。

「なにごとだ」

――ただいま、かの者より知らせがまいりまして、船岡どのが前田家の老職と密会するもようだと申しております。

「またか、また船岡か」

――相手は加賀藩の留守役、奥村藤兵衛という人物で、数日うちに密会する手筈だということでございます。

「なんのためだ、前田家の留守役と、なんのために船岡が密会するのだ」

――理由はわかりません。

「船岡、船岡、なんぞというと船岡の名が出る、いざ当ってみるとなにごともない、これだけ充分に手配りをし、起居動作を絶えず監視していて、少しでも疑わしいことがあれば、すぐ仔細にせんぎをする、ずいぶん仔細にせんぎするがなにごとも出てはこない、しかもまた船岡だ」

――しかし、この知らせは捨ておけまいと存じますが。

「跟けさせろ、云うまでもない跟けさせろ、だが、原田はどうして前田家の老職などと知りあったのか」

――日本橋の雁屋信助が仲立ちだということです。

「知っている、湯島の隠宅におるのがその妹であろう」