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もみノきはのこった

樅ノ木は残った

山本 周五郎

03 第三部

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 167,285 字 · 330 页

青空文庫

伏せ編笠

「また原田か」

――この二日、袴着の祝儀の八日まえに、船岡どのが湯島の家で、塩沢丹三郎と一夜を過したもようだと申します。

「原田が、……塩沢丹三郎とか」

――その日は、かの成瀬久馬が湯島へ供を致しました。久馬からはなんの知らせもございません。彼が役に立たなくなったことは、すでに御承知のことと存じますが、今日かの者の申すには、二日の夜、丹三郎が湯島で一泊したことは間違いないことでございます。

「それをどこで知った」

――賜暇の願いからと申します。

「邸外に出たのか」

――さように届け出たということです。

「道円め、にらんだな」

――はあ。

「隼人、道円にいまの話しを伝えてやれ」

――申し遣わします。

「しかし、なんのためだ、湯島の一夜になにがあったのだ、呼んだのは原田か、丹三郎か、よし、考えてみよう、内膳はかの者によく申しつけて、手ぬかりなきようにと申せ、よし、原田か、原田か……」

伏せ編笠

彼はその茶屋の前を、二度、ゆき戻りした。六、七軒並んでいる茶屋は、みな新らしい。不忍の弁天社へ橋が架ってから、参詣人がふえたので、掛け茶屋の店を出したのが、しだいに大きくなり、家数も増して、いまではどの店にも若い女を置き、飲み食いもできるようになっていた。