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もみノきはのこった
樅ノ木は残った
山本 周五郎
03 第三部
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 167,285 字 · 330 页
断章(十一)
「十左衛門か」
「里見十左衛門です」と七十郎は云った、「彼は問罪の書状を持って、一ノ関を追いまわしていました、面会はむろん拒絶されましたし、途上で捉まえようとしたが失敗しました、それで十左はますます怒り、一ノ関まででかけてゆくと云っています」
甲斐はそっと眼を伏せた。
「どうしても直接に会って、責任をとるように談判し、きかないときには刺し違えて死ぬ、と云っています、十左はまじめですからね、彼は決して食言しない男です、危ないのは私ではなく、兵部少輔宗勝ですよ」
「さて、――用談は終ったらしいな」と甲斐は静かに立ちあがった、「ゆっくり飲んでいるがいい、私は宮崎筑後に招かれている、――もういちど云うが、旅へ出るなら、早いほうがいいぞ」
断章(十一)
――一大事だ、御家老を早く。
「触るな、足に触るな」
――大槻さまに、早く。
――散るな、まわりを固めろ、曲者はまだいるかもしれぬぞ。
「その足に触るな、放せ」
――おそれながら暫く御辛抱のほどを。
「放せ、その手を放せ」
――ここは危のうございます。黒沢の谷地まで御辛抱のほどを。
――散るな、みな集まれ。
――みな集まれ、お側をはなれるな、まわりを固めろ。