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もみノきはのこった

樅ノ木は残った

山本 周五郎

03 第三部

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 167,285 字 · 330 页

青空文庫

古内治太夫はそこもとに近づこうとして、いろいろ策を弄している、ということを耳にする。彼はかつて悪人一味であったが、いまは一味からぬけて、そこもとに付き、そこもとを利用して、自分の野心を達するつもりらしい。これはもっぱらの評判だから、念のため伝えておく。

一ノ関の忠告は右のようなものであった。おそらく、同じ意味のことを、大学、外記、古内らにも伝えているだろう。「六十二万石安堵」で、みんな気がゆるんでいるときだから、一ノ関の言動にはよほど気をつけなければならないと思う。

「あのとき周防は寝ていた」と甲斐は自分に云った、「一ノ関に呼ばれて、帰るとすぐに、あの病気が出て寝つき、病床からあの手紙をよこしたのだ」

そして、甲斐は手記を繰り、同じ年の七月二十八日、一ノ関の嗣子、東市正宗興の婚礼の項を見た。

婚姻の相手は、まえから約束のあった人で、酒井雅楽頭の養女ということになっているが、じつは姉小路大納言公量の四女で、その長女は雅楽頭の夫人であった。――婚礼は極めて豪奢だったし、老中からも幾人か客が来たとのことである。甲斐や他の国老重職は、べつに招かれたが、その祝宴も贅をつくしたものであった。