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もみノきはのこった

樅ノ木は残った

山本 周五郎

03 第三部

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 167,285 字 · 330 页

青空文庫

「それもそうとしよう、それなら去年、周防の病死したときのことはどう解釈する、妻の離別で、いちじ不和になったとしても、伜の縁組で元に返った筈だ、しかも二人は刎頸の交わりがあったのに、周防が病床につき、再起おぼつかなし、となっても、みまいにゆかず、臨終にも訪ねなかった、臨終にもだぞ」

――はあ。

「そうだ、原田は周防の父、佐月の死んだときも同様だった、茂庭佐月の死んだときも、船岡におりながら、葬儀に出なかった、おれが佐月と不仲だったので、おれに遠慮したかと思っていた、わからない、まるで水をつかむようだ」

――私には明瞭だと思われるのですが。

「どう明瞭だ」

――仮に平素が不和であろうとも、古い友が危篤という場合、みまいにゆかぬということは、人情としても不可能なことです、それを臨終と聞いてもみまわなかったとすれば、まったく心がはなれていた証拠でございましょう。

「隼人はそう信ずるか」

――こんどの場合にも、同じことが云えると思います、矢崎舎人は原田どのの家従でございました、物頭という直臣にあげられてから、三年とは経っておりますまい、その舎人が無実の罪に問われ、無実であるという証人がいるにも拘らず、黙って見ているということは、とりも直さず殿への遠慮、なにより殿の御意を重んずる、という証拠であると存じます。