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もみノきはのこった
樅ノ木は残った
山本 周五郎
04 第四部
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 145,078 字 · 285 页
絶壁
――ここは「吟味ちゅう」ということにして、いちおう事を見送るべきだ。
反対する勢力は、時が経てば弱まるに違いない。処罰するならそれからでもおそくはないだろう、というふうに説いた。
古内家がまず折れた。兵部宗勝も、――おそらく自分が弾劾の矢おもてに立っているためだろう、しぶしぶながら甲斐の説に服し、処罰は暫く延ばす、ということになった。
甲斐は涌谷へ密書を送り、評議の始末と、七十郎を押えてくれるように、ということを頼んだ。そして時が経てば、国老側の意向も変るであろう、それまで、七十郎がおとなしくしていてくれるように、と甲斐は祈るのであった。
絶壁
七十郎は酔っていた。
青根の温泉へ来て半月になる。去年(寛文七年)の四月から殆んど一年、席次問題で存分に暴れたが、国老側は態度を明らかにせず、「なお吟味ちゅう」というばかりで、まったく埒があかない。気をくさらせて、この青根へ保養に来たのであった。
伊達家の宿舎とはべつの、湯治客の泊る棟で、ふじこという女中をひきつけたまま、連日、酒浸りになっていた。ふじこは二十六七になる。色が黒く、小柄で、手足はがっちりしているが、顔だちは眼に立つほどきれいだし、動作や口のききかたも、きびきびと歯切れがよかった。