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もみノきはのこった

樅ノ木は残った

山本 周五郎

04 第四部

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 145,078 字 · 285 页

青空文庫

だが、それを教えることはできない、と玄四郎は思った。おみやがこの兄のために押しつけられた苦労、女として最低のところまで堕とされたうえ、なおその首に繩を掛けられていたような状態を思うと、どんなことがあってもこの兄の手には返したくない、と玄四郎は思うのであった。

「おい、図星だろう」と六郎兵衛はたたみかけて云った、「きさまは正直者らしい、酒井邸からここへ来るまでの、することや云うことを聞いていると、正直で一本気だということがよくわかる、だが、正直であればあるほど、なにか隠したり、嘘をついたりすることは不得手だ、ものの云いよう、声の調子にすぐあらわれる、きさまはみやのいどころを知っている筈だ、そうだろう」

「私は知らない」と玄四郎は静かに云った、「知らないことは事実だが、いどころを知ることはできるかもしれない」

「それが本音だ」

「しかし私にはそれは云えない」

「酌をしてくれ」と六郎兵衛が云った、「酒のあとを頼む、きさまも飲め」

「もうたくさんだ」玄四郎はきっぱりと云った、「私は飲まないし、つきあうだけはつきあった、金は預けておくから独りで飲むがいい、私はこれで帰る」