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もみノきはのこった
樅ノ木は残った
山本 周五郎
04 第四部
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 145,078 字 · 285 页
甲斐はすぐに気づいて、そんな必要はない、と固く申しつけたのであった。
――久馬はかつて一ノ関に内通していた。
それがいまは、禁をやぶってまで自分を護ろうとする。おかしなものだ、と甲斐は思った。
「無用と申したことはするな」と甲斐はやさしく云った、「もうさがって寝るがいいぞ」
「はい」と久馬は低頭した。
三月十七日、甲斐は「朝粥の会」を催し、六人を招待した。しかし、来たのは蜂谷六左衛門だけで、他の五人は御用のためという理由で断わった。六左衛門もおちつかないようすで、盃には手を出さず、半刻そこそこで帰っていった。
「渡辺金兵衛が番明きですが」と帰るときに六左衛門が云った、「一ノ関さまから、帰国を延ばすようにという沙汰があったそうで、――御存じでございますか」
「いや、知りません」と甲斐は云った。
「江戸番は御家法ですから、番明きになった者を帰国させないということは、よほどの理由がない限り違法になると思いますが」
金兵衛は一ノ関の手の者である、涌谷の訴訟が片づくまでは、一人でも多く、手の者を身近に置きたいのであろう、甲斐はそう思ったが、色にも出さなかった。
「さて、それは」