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もみノきはのこった

樅ノ木は残った

山本 周五郎

04 第四部

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 145,078 字 · 285 页

青空文庫

「あたしはまたこの子が」とおくみが声をひそめた、「よそのお子たちとは違って、お父さまといっしょに暮せないために、人のきげんをとることばかり考えているのではないか、とも思われまして、――」

甲斐は黙って、かよの手から、赤い折鶴を取り、それにふっと息を吹き入れて、ふくらました。おくみは顔をそむけ、かよはうかがうように、父と母とを、交互に見やっていた。

「さあ、これを持って、ばあやと向うで遊んでおいで」と甲斐が云った、「たあたまは人に会わなければならないからね、あとでまた遊ぼう、なにをして遊ぶか考えておいておくれ」

かよはおとなしく膝からおり、ふくらんだ折鶴の羽根を摘んで持って、その部屋を出てゆき、自分で襖を閉めた。閉めた襖のすぐ向うで、乳母を呼ぶ、ばあ、という声がし、廊下を駆け去ってゆく足音が聞えた。

「そんなふうに思うことはよくないな」と甲斐が云った、「母親がいつもそんなふうに思っていると、子供にもすぐ通じるものだ、この子は不憫だと思うのは親だけのぐちで、たいてい不幸な境遇にいても、子供は親の思うほどには感じはしない、それはおまえ自身の、小さいじぶんのことを思いだしてみればわかる」