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じろうものがたり
次郎物語
下村 湖人
05 第五部
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 200,443 字 · 398 页
塵を廊下に掃き出すと、かれはバケツに水を汲んで来て、寝間と事務室とに雑巾がけをはじめた。窓をすっかりあけはなった、まるで火の気のない、二月の朝の空気は、風がないためにかえってきびしく感じられた。これまでたびたび同じ経験をつんできたかれにとっても、仕事は決してなまやさしいものではなかった。どうかすると、手がしびれるようにかじかんで、雑巾が思うようにしぼれず、また、拭いたあとの床板が、つるつるに凍ることさえあるのだった。かれは、しかし、二つの室をすみからすみまで、たんねんに拭きあげた。
もう、そのころには、廊下を行き来する塾生たちの足音も頻繁になり、ほうぼうから、わざとらしいかけ声や、とん狂な笑い声などもきこえていた。ゆうべの懇談会で分担をきめ、かれら自身の室はもとより、建物の内部を、講堂や、広間や、便所にいたるまで、全部清掃することに申し合わせていたので、かれらも、まがりなりにも責任だけは、果たさなければならなかったし、それに、きびしい寒さと、おたがいの眼とが、かれらを、外見だけでも、いかにも忙しそうな活動に駆りたてていたのである。
次郎は、自分の責任である二つの室の掃除を終わると、すぐ便所掃除の手伝いに行った。