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じろうものがたり

次郎物語

下村 湖人

05 第五部

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 200,443 字 · 398 页

青空文庫

しかし、朝倉先生のように、いつまでたってもじょうずにならないものもあり、また新加入者があるごとに、かならず二度や三度は何かのへまをやったので、爆笑の種は容易につきなかった。

最も多く爆笑の種をまいたのは大河無門だった。かれの不器用さは朝倉先生どころではなく、その手振りはまるで拳闘でもやっているような格好であり、その足の運びには、四股をふむ時のような力がこもっていた。しかも、かれ自身は、どんなへまをやっても微笑一つもらさず、いつも真剣そのものといった顔つきをしていたのである。

次郎は、その晩は、最後まで、心から愉快にはなれなかった。みんなが愉快になればなるほど、変にいらだつような気持ちになり、オルガンをひきながら、大河無門の不器用な踊りを見ていても、たださびしく笑うだけだった。そして、その晩の集まりが友愛塾音頭を打ちどめにして終わったあと、自室に引きとってからも、ともすると、大河の踊っている時の顔が眼に浮かんで来た。それは、かれの今朝からのにがい思い出を茶化しているような顔にも思え、また真剣に憂えているような顔にも思えるのだった。

かれは、ふと、何と思ったか、このごろしばらく手にしなかった「歎異抄」