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じろうものがたり

次郎物語

下村 湖人

05 第五部

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 200,443 字 · 398 页

青空文庫

」

「それは、おそらく、君だけじゃないだろう。入塾式の日には、たいていの塾生が田沼先生や朝倉先生の話よりも、平木中佐の元気な話に感激したんだからね。」

「ははは。……しかし平木中佐だって、ふまじめではないだろう。あの人はあの人なりに、本気で日本の青年のことを考えているにちがいないよ。」

「それはそうかもしれない。しかし本気ぶりがちがうよ。自分の考えだけに夢中になって、国民の地についた日常生活のことなんか、まるで忘れてしまっているような本気では困るね。」

「そうだ。そういうことが、ぼく、この塾にはいってから、よくわかって来たような気がする。」

「そういうことのわかった青年が、一村に五六名もいると、心強いんだがね。」

「そうだ。ぼくも、このごろしみじみそういうことを考えているよ。それで、ぼくの村からは、このつぎにもぜひだれか入塾させたいと思って、昨日手紙を出してすすめておいたんだ。」

「すいぶん手まわしがいいね。ぼくもさっそく手紙を書くことにしよう。」

次郎は仕切り戸ごしにそんな話し声をきいていて、泣きたいような喜びを感じた。しかし、その喜びは、かれを一そう憂うつにする原因でしかなかった。