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しょうごのさつじん

正午の殺人

坂口 安吾

「小説新潮 第七巻第一〇号」1953(昭和28)年8月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,888 字 · 28 页

青空文庫

仕事の合間にこの大広間で唐手の型をやって小一時間も暴れまわったあとで、入浴する。新聞原稿を書き終ったあとでそれをやることが多いので、文作も何度か神田の暴れているのを見たことがある。六十とは思われない若々しい身体で、夕立を浴びてるような汗をかき、目がくらんでフラフラしながらも「エイッ! ヤッ!」とやっている。それから浴室へとびこむのである。

「唐手のお稽古がいま終ったところ。入浴中よ」

アケミはこう説明して、広間の隅へ片寄せたイスの一ツに彼を案内した。

この毛利アケミさんなる人物は元来素人ストリッパーである。女子大学の演芸会でストリップを演じて同性を悩殺して以来肉体に自信を持ち、折あればハダカになって人間をウットリさせたいという野心をいだくに至った。やがて有名な画家を選んでモデルになる遊びを覚え、最高の女体鑑賞家と申すべき大家どもをナデ斬りにして溜飲を下げていたのであるが、そのうちに文士の神田兵太郎と同棲するに至った。

不能者だの男色だのと噂のあった神田がアケミさんと同棲するに至ったから、ジャーナリストも一時は迷ったものである。しかし、結局、神田が不能者であり、男色であるために、女体の最も純粋な鑑賞家なのかも知れない。