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ぶけわらじ
武家草鞋
山本 周五郎
「松風の門」操書房、1948(昭和23)年6月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,835 字 · 35 页
――そういう見えざる真実が世の中の楔になってゆく、そのひと言は、千斤の巌の落ちかかるように伝三郎をうちのめした。……しかし老人の言葉の終るのを待っていたのであろう、伝三郎が面をあげたとき、障子の向うでいねの声がした。
「……ごめん下さいまし、宗方さまへお客来でございます」
伝三郎は夢から醒めたようにふり返った、自分に客とは、柏屋からか、それとも道普請の人足建場からか、かれはそのどちらかであろうと思い、老人に会釈をして座を立った。しかし出てみると、もう暗くなった門口にいたのは、みなれない旅装の若い武士であった。
「拙者が宗方ですが、なにか御用ですか」
「おおやっぱり宗方」若い武士は声をあげながら前へ進み出た、「……たぶん間違いないとは思ったがやっぱりそこもとだったか、ずいぶん捜しまわったぞ」
「そこもとは杉田うじか」伝三郎はあっけにとられた。
「杉田五郎兵衛だ、しばらくだった」
「どうして、どうして此処へ」
「まずおあげ申したがようございましょう」いつか老人がうしろへ来ていてそう注意した、「……いね、お洗足をとって差上げるがよい」
いねが世話をして洗足をとると、客は老人に会釈して伝三郎の部屋へとおった。