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ぶけわらじ

武家草鞋

山本 周五郎

「松風の門」操書房、1948(昭和23)年6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,835 字 · 35 页

青空文庫

かれは杉田五郎兵衛といって、新庄藩での同僚のひとりである、しかしなんのために自分を尋ねて来たのか、どうしてこんな山里の住居が知れたのか、伝三郎にはまるで見当がつかなかった。

「お召し返しなのだ」五郎兵衛は座に就くとすぐそう云った、「……お世継ぎの事で退身した者が、そこもとのほかに五名あった、その六人に対して、内記正庸さまから、食禄もと通り帰参せよとの御意がさがったのだ、ほかの五人は昨年うちにみな帰参している、残っているのはそこもとひとりなのだ、すぐにも新庄へ帰らなければなるまいぞ」

「だがいったいどうして、いったいそこもとはどうしてこんな山家を尋ね当てることができたのか」

「そこもとは草鞋を作ったであろう」五郎兵衛は笑いながら云った、「……その草鞋が案内をして呉れたのだ」

「草鞋が案内をしたとは」

「袋井と申す宿で草鞋を買った、穿き心地にどこか覚えがあるのでよくみると、故郷の新庄でわれわれの作る武家草鞋だ、緒付けも耳の具合もまさしく違いない、そこで茶店へ戻って問屋を尋ね、二俣の柏屋からこの家を教えられて来たのだ」

ああという伝三郎の声に続いて、老人がそこへはいって来ながらこう云った。