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しね!

死ね!

豊島 与志雄

「文芸」1934(昭和9)年6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,979 字 · 18 页

青空文庫

ばか、彼は生きるとか死ぬとかいってるんだ、と私は彼女に云った。あら、あたしだってそうよ、と彼女は事もなげに云って、彼の方をちらと見た。君と一緒に死ぬともいってるよ、と私は彼女に云った。そんなら嬉しい、と彼女は素直に受けて、彼の方をちらと見た。私はばかばかしくなった。彼女はただ上の空の返事ばかりしていて、私の言葉は彼女の視線に乗って彼へぶつかってゆくのである。その彼はただにやにや薄ら笑いを浮べて嬉しそうに酒を飲んでいる……。

私は腹が立ってきた。こんな奴、殴ってしまうに限る、と思って立上ると、彼もふらりと立ってきて、私たちは取組み合った。尤も、酔狂の上のことで、千代子が笑って見ていたほどふざけたものだったが、それでも私が一押しすると、彼はよろよろとくじけて、千代子の肩にすがり、その花模様の膝にすべり落ちた。島田に結った髪の大きな影が、彼をすっぽり包みこんだ。

彼等をそこに残して、私は立去った。不安が湧いてきた。彼の弱々しさと窶れ方とが頭に残っていた。凡てを投げ出しているような千代子の態度も気になった。彼女の冷淡な言葉と彼は云っていたが、恐らく彼はそれによって、文字の意味とはちがったものを表現していたのだろう。