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しのこうかい
死の航海
国枝 史郎
「秘密探偵雑誌」1923(大正12)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,634 字 · 18 页
「オイお爺つぁん!」と宿の主人は、毒蛇のように頬をふくらせ憎々しい声で怒鳴り出した。
「オイお爺つぁん、一つお前に、いい格言を教えてやろう『時は金なり』っていうことさ! 縁もないお前と無駄話をして『黄金の時間』を費すなぁ途方もねえ浮世の浪費者だ! 俺にゃ賛成出来ないね。そこで、お前は厭だろうけれど、此処から一つ出て行ってくんな。さっさと元気よく出て行ってくんな!」
併し老人は出なかった。嘆願するような憐れっぽい声で幾度も繰り返えして頼むのであった。
すると、先刻から二人の様子を、階段の柱に寄りかかりながら、面白そうに眺めていた若い一人の水夫があったが、この時何を考えたものか、計算台の側へ寄って来た。
「向うは可哀そうな年寄じゃないか。因業のことを云いなさんな……宿賃が入用なら俺が出そう。だから器用に泊めてやってくんな」
主人は驚いて眼をあげて、若い水夫をジロリと見たが、
「なんだお前はガブリエルか。相変らず侠気を出すじゃないか。伊太利気質っていう奴かな……宿賃を代わって出すっていうなら、誰から貰ったって同じことだ。お前から其奴を貰った上で、室へ案内するとしようか」