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すいちゅうのかいじん

水中の怪人

山本 周五郎

「少年少女譚海」博文館、1939(昭和14)年6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,922 字 · 18 页

青空文庫

第一のときは缶詰は買おうとしたまま、よして川へしずみ、第二にはなんの用もなさない鼻紙包を盗んだ。第三の肉屋でも、塩豚と腸詰を注文しながら、やはり買わずに水の中へとびこんでいる。つまり三度とも目的をもたずに現われたと云えるだろう。

――奴らは自分の存在を人に見せておきたかったのだ。

文吾はそう思った。

雑貨店へ現われた時には、宙を掻るような奇怪な身ぶりをしたというが、これは店員に強い印象を与えるためのしぐさに相違ない。彼はこうして三度とも、ただ人の眼を驚かすために、また河童という評判をたてるために現われたのだ。――そしてその評判がひろまった時に、敬吉を誘拐したのである。

――彼は目的をはっきりさせた。

その目的を中心にしらべてゆけば、河童の正体をつきとめることが出来るかも知れぬ。

――いや必ずつきとめてみせる。

文吾は研究所を出ると、その足で工場の製図部へ回った。そこには津川の勤めていた頃の同僚がいるはずだ。果して文吾は同じ机で働いていたという吉岡三郎なる若い技手をみつけた。

「君は津川といっしょに働いてたんですね」

「そうです」

「津川とは仲良くしていましたか」