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すいちゅうのかいじん

水中の怪人

山本 周五郎

「少年少女譚海」博文館、1939(昭和14)年6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,922 字 · 18 页

青空文庫

そういう切出しで、津川がなにか人にかくして秘密な仕事をしていなかったか、変ったことでも見なかったかとたずねた。しかし吉岡技手はなにも知らなかった。

「ただ時々こんなことを云ってました」と最後に若い技手は云った。

「僕の名はいまにきっと世界的になるよ。そして億万長者になってみせるって――訳は云いませんが、そんなことを二三度聞きました」

「――それだけですね」

文吾は失望して工場を出た。

その他にも津川を知っている者はないかとさがし廻ったが、よほど用心ぶかい男とみえて、親しくつきあった者は他に誰もなかった。つまり唯一の手がかりは、

――僕はいまに億万長者になる。

と云った言葉だけである。

二十二日の午後まで、まる二日のあいだ、文吾は八方にかけ廻った。けれどついになんの得るところもなかった。

そして「河童第一号」の命ずる時間は刻々にせまってきた。

「私は設計図を守る!」

鹿島社長は悲痛な決意を示して云った。

「啓吉に可哀そうだが、この設計図がもし外国人の手にでも渡るようなことがあると、私は売国奴と同じ結果になる。――私は敬吉をあきらめた。啓吉もよころんで死んでくれるだろう」