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すいちゅうのかいじん

水中の怪人

山本 周五郎

「少年少女譚海」博文館、1939(昭和14)年6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,922 字 · 18 页

青空文庫

「社長、本当にそう決心なさいますか」

文吾がそう云ったとき、

「いやです、兄さんを助けて」

と泣きながら良子がとびこんできた。

「兄を死なせないで、平林さん、兄さんを助けて頂戴、兄さんを助けて」

「良子さん、まあ落ちついて下さい」

文吾は良子の肩をやさしく引よせながら、鹿島社長の方へ振りかえって云った。

「社長、あなたは啓吉君のことをあきらめるとおっしゃった。本当にその決心がおありなら、のるかそるか、僕がひと勝負してみましょう」

「なにか方法があるか」

「脅迫状の通りにして下さい。いや設計図は偽物で結構です。反古紙でいいですから、油紙へ包んで空缶へ入れて下さい。――僕はそのあいだに、ランチの用意をしておきます」

そう云って文吾は立ち上った。

「良子さん、あなたも来るんですよ」

一時間の後――

社長父娘と文吾と、腕力の強い社員を二人のせたランチは、明石町の河岸をはなれて、約束の九時には月島五号地沖を静かにはしっていた。――舳先に備えつけてある探照灯であたりを照らしてみたが、附近には小舟ひとつ見えない。闇の海面は油を流したように黝々と凪いでいまにもぽっかり怪物が現われはせぬかと思われるぶきみさだった。