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さばくのこと
沙漠の古都
国枝 史郎
「新趣味」博文館 、1923(大正12)年3月~10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 110,076 字 · 220 页
という吹聴のためか、聴衆は黒山のように集まっていた。聴衆は全部欧羅巴人で支那人は一人もいなかった。それは公園の入口に「華人不可入」と書いた建札が、厳めしく立っているからだ。
ラシイヌは聴衆の間に交って、彼の鋭い観察眼であたりを静かに見廻した。「描かざる画家」ダンチョンを発見出そうためである。ダンチョンの姿はラシイヌの左手、十間ほどの彼方にいた。新しい帽子に白のネクタイ、思い切ってめかしたその姿は、ラシイヌには滑稽に思われた。性来どこかにおかしみを持った田舎者じみたダンチョンが、神経質な眼付きをして、音楽などはうわの空で、例の美人を発見けようと、四辺をキョロキョロ見廻す様子は、それは全く珍であった。
ラシイヌはおかしさを堪えながら、ダンチョンの様子を見守った。
その時、きょとついたダンチョンの眼がある一所に据わったので、ラシイヌは「オヤ」と呟きながら、その方角へ眼をやった。はたしてそこには婦人がいた。すなわち楽堂の柱に寄って、黒い面紗で顔を隠した水色の服の欧州美人が、スラリと彳んでいるのであった。
「おや」とラシイヌは婦人を見ると、またも思わず呟いた。