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さばくのこと

沙漠の古都

国枝 史郎

「新趣味」博文館 、1923(大正12)年3月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 110,076 字 · 220 页

青空文庫

怪獣の姿が見えなくなるや音楽の音色は急に止み、十人の教徒は立ち上がった。そして動物の檻の方へ足を早めて歩き出した。手を上げて何物かを招いていたその男が先頭に立ちながら。

ラシイヌは急にしっかりとレザールの手を握ったものである。

「見たまえ、先頭のあの男を! 女中に化けて市長の家へ住み込んだのが彼奴だよ」

「それでは女ではないのですね?」

レザールは驚いて訊き返した。

「なんの彼奴が女なものか。それに決して西班牙人でもない」

「ではいったい何者なので?」

「長く欧羅巴にはいたらしいが、たしかに彼奴は東洋人だよ。回鶻人という奴さ」

「回鶻人ですってあの男が? しかし現代の社会には回鶻人という奴はいない筈じゃありませんか」

「歴史上では滅びているが、しかしあの通りいるのだよ」

「いったいどこから来たのでしょう?」

「新疆省の羅布の沙漠、羅布湖のある辺の流沙に埋められた昔の都会! そこから彼奴らはやって来たのだ!」

「で、どこへ行くのでしょう?」

「檻を開放しに行くのだよ。猛獣や毒蛇を檻から出して、マドリッドの市中へ追い放し、深夜の市中を騒がすためにね」

「いずれ理由があるのでしょうな?」