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かわあかり

河明り

岡本 かの子

「中央公論」1939(昭和14)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 49,244 字 · 98 页

青空文庫

「ところが、事務のことばかりの手紙で」

芸妓はこの娘が隠し立てしたり、人を逸らかしたりする性分ではないのを信じているらしく、それを訊くと同時に、

「やっぱり――」と云って興醒め顔に口を噤んだ。

「そう申しちゃ何ですけれど、あたしはお嬢さんがあんまり伎倆がなさ過ぎると思いますわ」

と今度は年長の芸妓が云った。「これだけのご器量をお持ちになりながら……」

娘は始めて当惑の様子を姿態に見せた。

「あたしは、随分、あの人の気性に合うよう努めているんだけれど……なによ、その伎倆っていうの」

年長の芸妓は物事の真面目な相談に与るように、私が押し出してやってある長火鉢に分別らしく、手を焙りながら、でもその時急に私の方を顧慮する様子をして

「ですが、こちらさんにこんなお話お聞かせして好いんですか」

「ええ、ええ」

娘の悪びれないその返事が如何にも私に対する信頼と親しみの響きとして私にひびいた。先程からの仕事への焦慮もすっかり和んで、むしろ私はその場の話を進行させる為めにことさら自らの態度を寛がせさえするのであった。年長の芸妓は安心したように元の様子に戻って

「ま、譬えて云ってみれば、拗ねてみたり、気を持たせてみたり」