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かわあかり

河明り

岡本 かの子

「中央公論」1939(昭和14)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 49,244 字 · 98 页

青空文庫

あたしは口惜しいの何のって、……でもね、そうしたあとで、あの人を見ても、別に意地の悪い様子もなく、ただ月の出を眺めてるようにぼんやりお酒を飲んでいる調子は、誰だって怒る気なんかなくなっちまいますわ。あたしは、つい、有難うございますとお叩頭して指図通り、顔を直しに行っただけですけれど、全く」と年下の芸妓は力を籠めた。

「全く、お嬢さんでなくても、木ノさんには匙を投げます」と云った。

新造卸しの引出物の折菓子を与えられて、唇の紅を乱して食べていた雛妓が、座を取持ち顔に、「愛嬌喚き」をした。

「結婚しちまえ!」

これに対しても娘は真面目に答えた。

「厄介なのは、そんなことじゃないんだよ」「そもそも、お嬢さんに伺いますが、あんたあの方に、どのくらい惚れていらっしゃるんです。まあ、お許婚だから、惚れるの惚れないのという係り筋は通り越していらっしゃるんでしょうけれど」

すると娘は、俄に、ふだん私が見慣れて来た爛漫とした花に咲き戻って、朗に笑った。

「この話は、まあ、この程度にして……こちらさまも一つ話ではお飽きでしょうから」

「そうでございましたわね」と芸妓たちも気がついて云った。