轻松读懂日语经典作品
ja-reading.com
轻松读懂日语,轻松阅读日语。在线阅读日语经典作品。支持在阅读过程中显示假名、查询生词、翻译句子。
ぬまのほとり
沼のほとり
豊島 与志雄
――近代説話――
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,788 字 · 16 页
」
「いつも、朝のうちに売りきれてしまうんでございますよ。」
七分コートの女は、ゆっくりと駅を出てゆきました。八重子もそれについて行きました。
町筋を通りぬけ、街道から細道へ折れこみました。いつのまに取り出されたのか懐中電灯の光りが、ちらちらと、足許をてらしました。相手の女の足袋の白さが、八重子には、眼にしみるように思われました。
「道がわるうございますよ。」
ゆるい下り坂になって、女はふり返りましたが、にこりともしない無表情でした。小石交りの道なのに、その吾妻下駄の音も殆んどしませんでした。ただ、冷たい夜風に乗って漂う仄かな香水の香りだけが、八重子には、人間らしい頼りでした。
生垣があり、大きな木立があり、灌木の茂みがあり、野原には薄の穂が出ていました。
「あ。」
八重子は思わず声に出して、足をとめました。ゆるい傾斜地のかなた低く、星明りにぼーと、広い水面がありました。
いっしょに足をとめてふり向いた女へ、八重子は言いました。
「河でしょうか、海でしょうか……。」
「ご存じありませんの。沼……というより、湖水でございますよ。」
この沼の広々とした水面が、生き物のように息づいてるらしく思えて、八重子は連れの女へ身を寄せました。