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うたかたのき

泡沫の記

久生 十蘭

(ルウドイヒ二世と人工楽園)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,889 字 · 26 页

青空文庫

正午になったところで、棺側に侍立していた侍僕の一人が、クルーク侍従に、「この辺でやめましょう。きりがないから」というと、侍従は、「バイエルンの国民は、王の御在世中、御懇意をねがえなかったのだから、せめてこんなときに、一人でも多くお目にかかれるようにしよう」とこたえた。

それから間もなく、六十五、六ぐらいの白髪の小柄な老人が、村民の後について進んで来た。王の棺の前に足をとめ、

「あなたのような、たぐい稀れな勇気のある方が、こんな終末をお見せになるとは」

と呟くと、侍従のそばへ行って、高慢な口調でこんなことをいった。

「君は、こんど新しく来られた侍従かね。私は、以前、王に御愛顧を蒙ったものだが、一昨日、王がゼーハウプトの駅亭のおかみに、わしによろしく伝えるようにとおっしゃったそうで、昨夜、それを聞いて気にしていたが、とうとうこんなことになってしまった。それで、君が侍従なら、ちょっと話したいことがあるから、十五分ほど、その辺を歩いてくれたまえ」

と脇間の扉から庭先へ連れだした。

「王様は、凡庸な医者どものために、とうとう気狂いにされてしまった。笑うにも耐えないようなことだが、今となっては、そのほうがよかったと思っている。