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はたのてい

波多野邸

豊島 与志雄

「展望」1946(昭和21)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,194 字 · 45 页

青空文庫

高石老人と井野老人とがそれらを選択した。固より、研究員という名目については、無給でまた無料だった。

高石老人はこの文化研究所を自慢にしていた。研究の成果などは問題でなく、研究の指導者さえも無かった。ただここに出入する研究員を通じて、壮青年層に、波多野洋介が一種の活動地盤を持つだろうということが、老人のひそかな目論見だったらしい。

この研究所に、或る私立大学の教師をし、傍ら翻訳をやってる佐竹哲夫が、勤勉にやって来た。然し彼は他の人々とはあまり口を利かず、非常な速度で書物を読んだ。或る政党の書記局にいた山口専次郎も、しばしばやって来た。彼は書物などは殆んど見向きもせず、時事問題について誰彼の差別なく意見を求めた。有名な文士の吉村篤史も、時々やって来た。なにか小説の材料になる記録でも物色してるらしかったが、未亡人の室の方に招じられて話しこむことが多かった。其他いろいろな人が来たが、年若い人が多いし、この一篇の物語には関係が少いようである。波多野家に家族同様の待遇でいる魚住千枝子が、室の掃除や整頓に当っていたし、以前から寄宿してる一人の学生がそこに寝泊りしていた。