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しんやのきゃく
深夜の客
大倉 燁子
「モダン日本 九巻一三号」1938(昭和13)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,926 字 · 28 页
「怪しからんじゃないか。お客がやったのかね?」
「それを調べておるんですが、――どうも、分らないで困っているんです」
「弄戯っておいて、逃げたんじゃないか?」
「否え、そんな事はありません。お客さんはお一人もお降りになりませんから。――ちゃんとこの通り一々行先を記してあります。いらっしゃらなくなれば直ぐ分りますが、お一人も欠けていないんですから――」
洋子の見た二つの影、それは何であったのだろう? 乗客の人数に変りがないとしたら、――あるいは夢だったのかも知れない、が、自分にはどうしても夢だとは思われなかった。しかし、何事もなかったと云っているところへ、余計な話を持ち出して、騒ぎを大きくしてはならないと考えたので、彼女は黙っていた。
すると今度は背中合せに腰掛けている若夫人が、役人風の夫にささやいているのが聞えた。
「停車場でもないところへ汽車が停るのは、何だか無気味なもんですわねえ。一体、誰が非常ベルを押したんでしょう?」
「うっかりと間違えたんじゃないか。――何しろ、あの有名な義賊尾越千造が脱獄したというので、その筋じゃすっかり神経を尖らしてるからな。