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ふかがわにょうぼう

深川女房

小栗 風葉

「新小説」1905(明治38)年3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 28,597 字 · 57 页

青空文庫

帳場と店とは小僧対手に上さんが取り仕切って、買出しや得意廻りは親父の方から一人若衆をよこして、それに一切任せてある。

今日は不漁で代物が少なかったためか、店はもう小魚一匹残らず奇麗に片づいて、浅葱の鯉口を着た若衆はセッセと盤台を洗っていると、小僧は爼板の上の刺身の屑をペロペロ摘みながら、竹箒の短いので板の間を掃除している。

若衆は盤台を一枚洗い揚げたところで、ふと小僧を見返って、「三公、お上さんはいつごろ出かけたんだい?」

「そうだね、何でも為さん(若衆の名)が得意廻りに出るとじきだったよ」

「それにしちゃ馬鹿に遅いじゃねいか。何だかこの節お上さんの様子が変だぜ、店の方も打遣らかしにして、いやにソワソワ出歩いてばかりいるが……」

「なあにね、今日は不漁で店が閑だから、こんな時でなけりゃゆっくり用足しにも出られないって」

「へ! 何の用足しだか知れたものじゃねえ、こう三公、いいことを手前に訓えてやらあ、今度お上さんが出かけるだったらな、どうもお楽しみでございますねって、そう言って見や、鼻薬の十銭や二十銭黙ってくれるから」

「おいらはそんなことを言わなくたって、お上さんにゃしょっちゅう小使いを貰ってらあ」