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ゆしまもうで

湯島詣

泉 鏡花

「湯島詣」春陽堂、1899(明治32)年11月23日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 62,004 字 · 122 页

青空文庫

「まあ、さっきから顔が見えたようだっけ、それじゃあ、俤だったかしら。」

思わず悚然として、あたりを見たが、莞爾して、

「ちょいと、肖ていると思うもんだから、お前は生意気だね。」といって掻巻の上を軽く叩くと、ふわりと手が沈んで応がない。

「あれ、」とばかりで、考えたが、そッと襟を取って、恐々掻巻を上げて見ると、牡丹のように裏が返った、敷蒲団との間には、紙一枚も無いのである。

蝶吉は我知らず、

「富ちゃん、」と声を立てて、真直に跳起きた。

「はてな、」机に凭りかかった胸を正しく、読んでた雨月物語から目を放して、座の一方を見たのは、谷中瑞林寺の一間に寓する、学士神月梓である。

衣帯正しく端然として膝に手を支いて熟ともの思いに沈んだが、借ものの経机を傍に引着けてある上から、そのむかしなにがし殿の庭にあった梅の古木で刻んだという、渠が愛玩の香合を取って、一捻して、

「こんなこッちゃあ可かん。」と自から窘めるがごとく呟いて、洋燈を見て、再び机に向った時、室が広いので灯も届かず、薄暗い古襖の外に咳く声して、

「先生、御勉強じゃな、」といいながら静かに入ったのは、院の住職律師雲岳である。