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りょうしのむすめ

漁師の娘

徳冨 蘆花

「家庭雑誌」1897(明治30)年1月25日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,592 字 · 23 页

青空文庫

そら浅葱の着物着た。あら白い衣物着た。あれ幕の中に入ってしまった」などという。冬になって骨あらわに瘠せて見えると「あらお山が寒そうな」という。雪げに見えなくなると、お光は終日悵然として居る。年とる程親みが深うなって、見れば見る程山はいよいよいきて見える。心に悲しい思があって、柳の根株に腰かけてつくづくと眺めて居ると、お光の眼には山が段々近うなって、微笑んで小手招ぎするように思われる。「お光坊何を案じて居るの。何を考えて居るの。真正のお父さんお母さんに逢いたいの。何が悲しいの。お泣きでないよ、わたしたちが見て居るよ」といい顔にじっと此方を眺めて居る。見れば見るほど、嬉しく、悲しく、恋しく、なつかしく、霞が浦の水の面をさらさらと走ってお山に抱きつきたいとお光は思って、飛ぶ鳥の翼を羨んで居ると、「お案じでないよ、今にね、わたし達の傍に来られる、それまでは辛抱して御出で」と慰め顔に此方を眺める。眺め眺めて日は入って、恋しい思の筑波も黄昏の奥に入ってしまっても、猶立たないで「お光ちょう、日がくれたに何をしてるよう。よう、早う来う」とかしましく呼ぶ養母の声が聞ゆるまでは眺め入って居る。