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りょうしのむすめ
漁師の娘
徳冨 蘆花
「家庭雑誌」1897(明治30)年1月25日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,592 字 · 23 页
「婆、光あどうしたんだんべい、変だのう」此れは右の事があって十四五日してから万作が嚊に話した言葉だ。何さま変だ。昔から妙な児であったが、近来は殊に変だ。何時となく歌も歌わなくなった。山も眺めなくなった。仕事はする。が、気が入らぬようす。始終溜息ばかりついて居る。それに今迄と違って、髪も気にする。水鏡も見る。両親に対しては前よりも一入言わぬ。何処をあてともなく茫然として溜息をつく。好人の万作も年寄っては愚痴っぽく、また邪気もちっとは出るかして、お光の阿魔め実の親が恋しいので己等を疎略にするのじゃあるめえかと思ったと見え、時々は今迄になく叱ったりすることもあるが、お光は唯黙って聴いて、一言もあらそわぬので、万作の方から気の毒になってやめて仕舞う。「光にかぎって其様な事はありゃしねえよ」。是は婆が万作を宥める言だ。
左右する内、二三ヶ月たって、お光十五の二月となった。お光は爺と舟に乗って加藤洲に行って、それから潮来に寄って、用を達して帰りかかって居ると、隣に人待顔に立派な毛氈敷いて烟草盆茶盆まで揃えた舟があって、頓て一人の男が鉄砲三四挺一所にかついでやって来たが、其跡からどやどや人の跫音して、男女づれが大勢やって来た。