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りょうしのむすめ
漁師の娘
徳冨 蘆花
「家庭雑誌」1897(明治30)年1月25日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,592 字 · 23 页
舟の方へ下りて来ると芬と酒の臭がして、真先に女しかも女郎の肩に手をかけてぐでんぐでんに酔って、赤い眼をとろとろさせて、千鳥足に下りて来るのを見ると、此は驚いた、去年の秋の頃吾舟に乗せたことのある、あの美男子の若殿様だ。其若殿様が正体なく酔って、舟にのるといきなり大の字に倒れてしまったので、お光ははっと驚いて、如何にも不思議相に、それから哀しそうに、無念そうに眺めて居たが、爺に催促して、跡の騒ぎや女郎などの「どうぞまたおほほほほほ」など蓮葉ないやらしい笑声を聞き捨てて、舟を出してしまった。「何だよ光、何をすてる? 其の白いものあ。うん、ハンケチか。何する」お光は答えない。黙ってしまった。
其日帰ってから幾月ぶり思い出したようにお光の歌うのをきいて、万作は「のう媼。お光ちょうは変な児だのう、久しゅう歌わねえからどうしたんべいと思ったら、ひょっくら歌い出したのう」と言った。成程お光は久し振りに歌い出して、また久しぶりに柳の根株に腰をかけた。そして久しぶりに筑波の方を眺めた。すると筑波は「久しゅう逢わなんだねえ光ちゃん。何様したんだえ。よう帰ってお出でだ」