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はなかみろうにん
濞かみ浪人
吉川 英治
「サンデー毎日 新春特別号」毎日新聞社、1938(昭和13)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,425 字 · 39 页
と、彼を馳走して帰すたびに、帰り際には、きっとそう云った。口に出して礼を云う老人でなかったが、蠣浜橋の時の彼の働きは、内心大いに多としているのであろう。
偶然――そういう事情の中に懇意きとなったので、数右衛門は、老人にも愛されるし、お千賀にも、いつも笑顔で迎えられた。
で、数右衛門は、
(雄之助へは断っても、おれならばくれるな)
と、思った。
何かで、旗本のうわさだの、雄之助の話が出れば、お千賀も一閑と共に、よく云わないし、反対に、自分には絶対な好意を示す。――数右衛門の癖で、
『御息女。もう一本……』
と、酒と後引や、長座の夜更かしになっても、
『では、これっきりで御座いますよ』
お千賀が、愛くるしい眼で、睨むまねはするが、決して厭な顔はしない。
その上、酔った戻りに、溝へ落ちたと云えば、洗い物を持っていらっしゃいと云ってくれるし、寒くなれば、知らない間に、冬着を縫っておいて、
『お国元から参りましょうが、お間に合せに、お召しくださいませ』
と、お千賀が、しつけ糸まで抜いて、身背丈を見ながら、着せてくれたりする。
気だての良さ、お千賀の美しさ。身分の高下もたんとない。