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はなかみろうにん
濞かみ浪人
吉川 英治
「サンデー毎日 新春特別号」毎日新聞社、1938(昭和13)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,425 字 · 39 页
雪見ぶね
そんな事を描きつつも、酒は好きだし、つい陶然ともなって来る。数右衛門は顔が火照ってならなかった。
『おい、そこを少し、開けておくれぬか』
『まあ、こんなお寒いのに――』
妓は、川面の障子を、初手は細目に開けたが、
『おや、めずらしいものが。……まあ、綺麗だねえ』
と、さけんで、いっぱいに其処を開けて見せた。
隅田川の広い闇を、まるで幻を見るように、降り出した初雪が、白い縞をななめに描いて、一瞬、酔える人々の目を奪った。
雪見ぶね
『寒い、寒い。――そう開けるな』
庄左衛門のことばに、妓たちは、あわてて両方から障子を閉てた。
暫く、燭台が墨を吐いている。庄左衛門はそれを機に、妓たちを遠ざけて、
『時に、数右衛門どの』
と、革まった。
『は……』と、数右衛門は待っていた言葉を聞いたように思った。そこで彼も、努めて、着物の前を合せたり、膝を正そうとしたが、生憎ともう、手のほうがいう事をきかないらしい。かえって、妙に、酔っぱらっていることを証拠立ててしまう。
『あいや、そう窮屈にされぬでもよい――。話はまことに簡単なのだ』
『な、なに事でござるか。……拙者に、折入っての、御用向とは』